北運河

なんと、なんと、食事を終えて外に出ると雨があがっていた。
雲がきれて、青空さえ見えている。
ほんの近くをぶらっとしたら
タクシーをひろってざっと観光してもらってもと思っていたが
この晴れ間が私を誘惑する。
目の前の北運河も今はきれいに遊歩道が整備されているが
観光客の姿はまったくといっていいほど見当たらない。
この運河の景色を味わいながら歩いてみたいなと思う。

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少し遊歩道を歩こうか、
晴れ間に気を良くしたのか、父もうなづいてくれる。
右手には古い倉庫。
左手には運河。
昔から水辺と倉庫のある風景に妙に惹かれるところがある。

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私はそんな風景を味わいながら歩き、
父は前をゆく。
来る前にろくな靴のない父に歩きやすそうなものを一足買った。
一緒に選んだ靴は、軽くて柔らかくできていたが
履きなれなくて大丈夫だろうかと心配したけれど、どうやら歩き心地はいいようだ。

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台風の影響で強い風にあおられ黒い雲が流されていく、
それでも晴れ間からの日差しは思いのほか強くて
父が少し咳き込んで、歩みが遅くなった。
ちょうどベンチが見えたので、
少し休もうかと腰かけ、飴をひとつ渡した。
何かの気配に振り向くとカモメがすぐベンチの後ろに一羽きょとんととまっていた、
父と目をあわせて笑う。

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しかし父の元気もそろそろここらへんまで。
一休みしたから大丈夫かと思ったが、かえって一度休んだら動きたくなくなってしまったらしく
足腰も少し痛むのか、もう歩くのは嫌だと言い出した。
無理もないか、
わかった。あと少しで、賑やかな通りに出るから、タクシーを拾おうね、
もうちょっとだけ、ゆっくりでいいから歩いてくれる?
わかったと歩き出すが、
ものの数分で、どこまで行くんだと不機嫌全開。
やっぱり無理だったかと、半ば私の都合で歩いてしまったことを反省するが
ここで、無理させてしまってごめんねが言えない。

日差しの暑さも手伝ってよけいに疲れるのだろう。
不運にもタクシーも通りがからない。
あとほんの少し先に行けば観光スポットなので、タクシーもあるだろう、
ただそのほんの少し先が遠い。
ちょうど観光物産プラザがあったので、
とにかく一度屋内に入って日影で水分補給と
タクシーを呼んでもらってもと思いまた休憩。
ありがたいことにテーブルと椅子が並んだ休憩スペースがあったので
父にはペットボトルの水を買って一休みしてもらい、
私はすぐわきのお土産と展示コーナーをぶらっとひとめぐり、
そこに閲覧用の一冊の写真集が置いてあった。

『記憶の小樽』 岡田明彦写真集。
モノクロの写真集をめくると、
まだ観光地と変化していく以前の小樽の町の様子、人々の生活が写しだされていて、
思わず見入ってしまった。
この写真集に写っているのは
1972年から83年までの小樽の町を『記憶の小樽』としてまとめたものだとされ
作者の言葉にこんなものがある。

この町の坂道を数え切れないほど登ったり下ったりしたものです。
小樽の町を歩いていると、ふと記憶が町の影や光の中から蘇ってくることがあります。
それらは繰り返し思い出される、記憶されなければならない記憶とはちがって、
記憶にないはずの記憶となって現れてくるようです。
過ぎ去った時間がそうさせるのかは分わかりませんが、
小樽の町には記憶を再生させる不思議な仕組みがあるのかも知れません。


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小樽は坂の多い町。
父も言っていた。
父はここで数年学生生活を送っていたが、途中で身体をこわし、
戦時中だったこともあって、小樽での日々に複雑な想いもあるようだ。
その時のことになると、あまり多くを語ってくれない。
だからこの町にどんな父の思い出があるのか、私にはよくわからない。
けれど、
小樽の町には記憶を再生させる不思議な仕組みがあるという
父にも何かよみがえるものがあったのだろうか、
疲れて黙ってしまった父の背中からは、うかがい知ることは出来なかったし
私も何もきかなかった。

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そろそろ行こうか、と父に言う。
反対の入り口から出た道路を渡ったところにタクシーが何台も並んでいたので
そこから乗ることにした。

運河からまた名所をまわる観光用なのだろう、
大通りの先に見ることのできる小樽駅までと言う人はいないと思う。
でもそこまでを歩くのが今の父にはできない、
仕方ない、
「ほんとうに近くて申し訳ないのですが、駅までお願いできますか?」
父をみて、運転手さんも察したのだろう、どうぞどうぞと快く言ってくれた。
少し早いけれど、札幌にもどろう。
しかし、このあと小樽にもうひとつ思い出ができた。


父との時間を反芻しながら、書いています。
米欄もお休みしていますが、
カメさんペースの旅行記もう少し続きます。

by sarakosara | 2011-10-16 15:29 |
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